『新賢明なる投資家』備忘録⑱第17章(特別な四社の例)
皆さんこんにちは!
この記事は『新賢明なる投資』第17章(特別な四社の例)の備忘録になります。
備忘録①は以下よりどうぞ!
『新賢明なる投資』第17章では、市場における四つの危機について、4つの企業の例を基に考察がされています。
市場にはどのようなイレギュラー要素があるのか、危機があるのかについて見ていきましょう。
潰れそうなのに株価が高い
一つ目の例としてグレアムさんが挙げているのはアメリカの鉄道会社である、ベン・セントラル社になります。
この例の特殊な点は、
同社の財務基盤が脆弱でありながら、その最も初歩的な危険信号を見逃したという点において特別な例である。不安定な巨大企業の株価が異様に高い例の典型例でもある。(P236)
グレアムさんは、この鉄道会社が1970年に破産する2年前、つまりは1968年の段階において既に安全基準を満たしていないことが明らかであったと述べています。
※1株あたり 1970年=5.5ドル 1968年=86.5ドル
理由としては、支払利息に対する収益の倍率や税金の未払い、会計操作など様々なものが挙げられていますがここでは割愛させていただきます。
とにもかくにも、
私達がこの例から学ぶべきことは、たとえ大企業だとしても財務状況に関してはきちんと目を光らせておくべきだという事になります。
上述の通り、もしグレアムさんの言うように、1968年の段階でベン・セントラル社の行き詰まりに気づくことが出来ていたのなら、86.5ドルで売り抜けることが出来ていたはずです。1970年の5.5ドルとは比べようもありません。
もちろん、
なかなか、難しい部分もあるとは思います。しかし、「投資成績は投資家の知的努力によって決まる」というグレアムさんの言葉を糧に頑張っていきたいものです。
ちなみに、
グレアムさんは倫理的な観点から、証券分析のプロであるアナリストには一般投資家保護のために、ベン・セントラル社のような失敗を出さないように目を光らせる責任があると主張しています。
そのようなアナリストが増えるとファンドの信頼性も上がりますし、投資家とファンドの相互利益につながりますよね。
過度な成長による爆発
二つ目の特殊な例として挙げられているのは、リング・テムコ・ボート社の例です。この例では銀行の過度な融資による不健全な事業拡大がどのような結末を引き起こしたのかが説明されています。
これは、急速に成長し、また急速に負債を背負い込み、巨額の損失を出して多くの金融問題の引き金となった企業の物語である。(P240)
リング・テムコ・ボート社は事業の拡大に向けて数々の買収を行っていました。しかし、一体その資金は何処からきているのかというと、商業銀行による融資、つまりは負債によります。
買収による規模の拡大で当初、リング・テムコ・ボートの売り上げは増えています。しかし、同時に負債についても増え続けていました。
言うなれば、
リング・テムコ・ボートは買収によって規模が大きくはなっていったものの、より利益を生む会社になったわけではないのです。
そして、
一旦会社の見通しが悪くなると、銀行らは自らの保有株を一斉に売却し始めます。
この例から見える事というのは、銀行は企業に対して過度な成長を促す融資を通じて事業拡大にともなう投機的な株価の高騰を誘発する可能性があり、その投機の熱が冷めぬうちに保有株を売却することで利益を生み出すことが出来るという事です。
これは、果たして倫理的にどうなのでしょうか。
少なくとも、
投資家として銀行が企業に対してその事業規模や内容、財務状況に見合った融資をしているのか、はたまた投機的な株価の値上がりを目的とした過度な資金供給なのか、きちんと判断できるようになることが重要だと胸に留めておきたいものです。
小が大を買う
三つ目の例として挙げられているのがNVF社です。
一般的に、企業の買収は規模の大きな企業が小さな企業を買収するという形で行われます。
しかし、
市場では時として、規模の小さな企業の方が大きな企業を買収するという動きがみられることもあります。
NVF社
企業買収の特別な例で、小企業が七倍の規模の企業を吸収し、巨額の負債を抱え込み、驚くべき特別な会計操作を行っていた例である。(P236)
さて、
では小規模の企業が大きな企業を買収することによってどのような影響が出てきたのでしょうか。
この買収は、言うまでもなく1969年に成立した買収劇の中でも極めて財政的に不釣り合いなものであった。買収劇は新たな過剰債務に対する責任を負い、その上1968年の利益は、黒字から赤字に転落した。(P245)
まず、
そりゃそうでしょ。
となりますが特筆すべきはこの後ですね。
何と、
NVF社は会計操作をし始めます。
それだけでもちょっと待ってくれよという話ではありますが、もう一つの致命的な点は買収に際して大量のワラント(新株予約券)を発行してしまったという事ですね。
ワラントが発行された場合、その権利行使されると発行済株式総数が増加し一株当たりの当期純利益が下がることになります。
これを希薄化効果と言います。
これはあくまでもワラントの一側面に過ぎないのですが、第16章においてグレアムさんは以下のようにワラントについて言及しています。
まずはっきり言っておく。われわれは最近のストックオプション・ワラントの発達を、ほぼ欺瞞、実在の脅威、大惨事の温床だと考えている。(P216)
財務状況が不釣り合いな企業同士による買収が行われる場合には、どのように買収が行われるのか、また、その後の財務状況については会計が操作される可能性も考慮してチェックしていく事が必要だと固くここに宣言したいと思います。
無価値な企業のIPO(新規公開株)
最後四つ目の例は、AAAエンタープライズ社についてです。
小企業が株式公開によって資金調達を行った極めて特殊な例である。~中略~同社は売り出しから二倍の高値になった後、二年もたたずに破産した。(P236)
IPO株についての重要な点をこの例は示してくれていますね。
昨今IPOはとても人気な投資対象であり事実、IPOと聞くだけで目先の利益を目指し、値上がりするだろうというアニマルスピリット的な価値観で取引をしてしまう人はたくさんいます。
※アニマルスピリットについてはコチラで解説しています。
もちろん、
AAAエンタープライズ社の株価も上場してから二倍の株価に上がっていますし、短期的に必ず売り抜けることが出来るのなら挑戦する価値はあると思います。
しかし、
この例から分かることは、やはり株式に投資する以上その企業の事業に対して確信を持てる場合でなければ投資は行わないという事です。
AAAエンタープライズでは、簿価と比べるとかなり逸脱した価格になっており、投機的な要因が大きく市場に反映されていたことが伺えます。
また、
同社がわずか数か月のうちに、公開前資本金・株式売り出しによる資金・創業最初の9か月分の収益の総額3分の2にあたる資金を失ったことを考えれば、いつ自分が保有しているIPO株が紙切れになるのかはわかりません。
このような株式は、基本的に売り出し引き受けの証券会社を設けさせるためのものであるという認識が必要ですね。
まとめ
・財務状況のチェックで破産を察知する
・事業拡大のスピード・融資の使われ方には注意
・財務規模が不釣り合いな買収には注意
・投機的な取引は慎むべし
ここまでお読みくださりありがとうございました。