『ウォール街のランダムウォーカ―』備忘録⑩十章(リスクを取ってリターンを高める)

皆さんこんにちは。

 

この記事は『ウォール街のランダムウォーカ―』第十章(リスクをとってリターンを高める)の備忘録になります。

 

備忘録①は以下よりどうぞ!

jeconomy.hatenablog.com

 

前章の第九章では、現代ポートフォリオ理論を紹介し、分散投資によってどのようにリスクの低減を図っていけばよいのかについて大まかに学びました。

 

引き続きリスクがテーマの第十章ですが一体どのようなことが学べるのでしょうか。実際に見ていきましょう。

 

とるべきリスクの考え方

 第九章では分散投資によってリスクの低減が出来るという事を学んだわけですが、分散投資にも限界はあるわけです。

 

例えば、あなたが市場にあるすべての企業に分散投資をしていたとしても、昨今のコロナウイルスによる消費活動の低迷は市場全体の落ち込みに繋がりました。分散投資はあくまでも、ある銘柄の損失をを他の銘柄の収益によって緩衝することが想定されているわけですので、ほとんどの銘柄が同じように価格の下落にさらされる状況においては、その効果を十分に発揮できないわけです。

 

それ故、

銘柄を選択する時点においては、リスクの考え方についてもう少し深く突っ込んでいく必要があるわけです。

 

どのようなリスクは分散投資によってカバーすることが出来て、どのようなリスクに対しては分散投資によってカバーすることは出来ないのか、が重要な論点となってくるわけですね。

 

このような問題に対して資本資産評価モデル(CAPM)という、一つの答えを導いたのがスタンフォード大学ウィリアム・シャープ教授をはじめとする、三人の経済学者です。

 

本文の主張に目を通しながら資本資産評価モデルについて見ていきましょう。

 

資本資産評価モデルの背景にある理論は、分散できるリスクをとっても市場はプレミアムをくれないというものだ。(P302)

 

資本資産評価モデルにおいては、一般的にリスクをステマティックリスク非システマティックリスクの二種類に分解して考えます。

 

ステマティックリスク:

 

 市場全体の変動や、株式全体が他の投資対象との兼ね合いなどである程度同じ値動きをすることから生じるリスクです。これは、分散投資によっては低減できないリスクと言えます。

 

 

非システマティックリスク:

 

 個別企業の不祥事や経営状態などからくる価格変動によるリスクです。システマティックリスクとは異なり、分散投資によってリスクの低減が期待できます。

 

 

引用部で語られていた分散できるリスクというのは、非システマティックリスクのことを指しており、このリスクをとってもリターンには反映されないだろうという主張となっています。

 

つまり、

このモデルでは、リターンの期待は分散投資によって低減できないシステマティックリスクによるものだということになり、非システマティックリスクの範囲におけるリスク低減を果たせていないのは、即ちリターンに関係ないリスクを増大させている馬鹿者であるという事なのでしょう。

 

とるべくリスクとは、システマティックリスクである

 

肝に銘じておきます。

 

β(ベータ)の考えかた

資本資産評価モデルにおいて、もっとも重要な概念はベータでしょう。

 

このギリシャ文字がなにを示してんねん?

 

という点についてはまず本文を見ます。

 

ステマティック・リスクはまた市場リスクとも呼ばれ、個別銘柄やポートフォリオが市場全体の変動に対して反応する度合いを示す。銘柄やポートフォリオによっては、市場の動きに非常に敏感に反応するものもあれば、比較的安定しているものもある。この相対的な変動性、または市場に対する感応度の大きさは、過去の実績に基づいて推計することが可能で、ギリシャ文字のベータ(β)として広く用いられているのである。(P303)

 

資本資産評価モデルにおけるベータとは、簡単に言うとシステマティックリスクを数値化したものになります。

 

例えば、

S&P500などの広範囲な株価指標のベータを仮に1と置き、ある銘柄のベータの数値が2であった場合、これが意味することは、その銘柄の株価は平均してS&P500の株価の2倍の変動が予想されるというものです。

 

ベータの計算は個別銘柄や市場全体のリターンの相関関係を基本にしたものですが、現在は証券会社などが計算して数値を発表してくれているので、覚える必要はないと思います。

 

ともあれ、

資本資産評価モデルでは上記の通り、投資においてとるべきリスクとはシステマティックリスクの事を指しており、そのシステマティックリスクの度合いはベータの数値に依存するという事になります。

 

この概念のエッセンスを簡単に覚えるためにも一つ皆さんに問題です。

 

Q:以下の二つのポートフォリオA・Bにおいてよりリスクの高いと考えられる銘柄はどちらでしょうか?

 

  • ポートフォリオA(ベータ=1、銘柄数60、銘柄は個別・総リスクともに高い)

 

  • ポートフォリオB(ベータ=1、銘柄数60、銘柄は個別・総リスクともに低い)

 

 

 

 

A:どっちも変わらない

 

 

ちょっと問題の出し方がずるかったですかね(笑)

ごめんなさい。

 

今回この問題のポイントはベータの値がどちらのポートフォリオも同じだという点になります。確かに、個別に見ればポートフォリオAの方がポートフォリオBと比べて、リスクの高い銘柄を含んでいます。

 

しかし、

そのリスクはいわば非システマティックリスクの領域なわけで、十分な分散投資が行われることによってそのリスクは低減され、全体のリスクはシステマティックリスクの値に近づいていくと考えられます。

 

今回、システマティックリスクを示すベータの値はポートフォリオA・Bどちらも等しいため、リスクとしてはどちらも変わらないと考えられるわけです。

 

資本資産評価モデルの有効性は?

なるほど~

 

資本資産評価モデルは、分散投資によっては低減できないリスクに着目するもので、それに基づき自分がとるべきリスクを教えてくれているものなのですね。

 

と・は・い・え

 

問題は、その理論が実際どれだけ投資に有効なものなのかなわけですよね。

 

どれだけ素晴らしい理論であっても、「そんなものは机上の空論だろ」って一蹴されてしまうことは珍しい事ではありません。

 

ウォール街のランダムウォーカ―』著者のマルキールさんはもちろんその点についても研究・考察をしてくれています。

 

どのような研究をしたのかは長くなるので割愛させていただきまして、マルキールさんの結論を申しますと。

 

CAPMに重大な欠陥が見つかったからといって、金融分析における数学的なツールを捨て去って、伝統的な証券分析に逆戻りすべきだということにはならないと思う。さらに、私は現時点ではまだベータの死亡記事を書く気にはなれない。(P316)

 

マルキールさんは様々な研究を通じて、計測されたベータの値が個別株式やポートフォリオのリターンとは何の関係がないとも考えられる証拠を様々発見しました。

 

しかし、

だからといって、この資本資産評価モデルを全否定することは避けるべきだと主張しているわけですね。

 

理由としては以下の三つを挙げていました。

 

①安定したリターン:

 ベータの値は将来のリターンの変動性についての予想には有効性を認め得るレベルにあり、変動性の高いリターンよりも安定したリターンを目指すのは投資家として合理的な判断なわけです。

 

②正確なベータ測定が困難:

 ベータを計算する場合には、どのような市場を対象にするのか、またはどの範囲まで要素を考慮するのかなどによって、算出される値にぶれが生じます。ベータの有効性を否定する研究はありますが、有効性を肯定する研究も多く存在しているのです。

 

③役に立つ場面がある:

 ある研究によると高ベータの株式は低ベータの株式よりも大きく下落する傾向が観測されている。とするならば、相場の変動リスクを考える場合では有効な判断材料の一つとして採用できるとも考えられます。

 

 

以上よりマルキールさんは資本資産評価モデルの全面的な反対には至っていないというわけですね。

 

 この第十章では、資本資産評価モデルについての検討がなされてきました。最終的には、このモデルがリスクを考える上での絶対的な指標にはならないとしながらも、一部有効に利用できる場面も存在しうると言っていました。また、第十章の最後ではそもそも絶対的なリスクの尺度などというものは存在しないとも言っていましたね。

 

結局、投資家はどれだけ投資手法が発達しようが、リスク分析の手法が洗練されようが不確実性の存在から脱出することは叶わないのでしょう。

 

何百年も昔、星の位置を頼りにおおよその進路を導いた勇敢な航海士のように、投資家も自分の知力と勇気を信じて、投資という大海原を悩みながらも進んでいくしかないのでしょう。

 

まとめ

・システマティックリスクを考えよ

 

・資本資産評価モデルは万能ではない

 

・そもそも万能なリスク尺度などない

 

・自分が信じられる武器を正しい機会に使えるように

 

ここまでお読みくださりありがとうございました。

 

 

 

備忘録⑪はこちらから!!

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