『新・賢明なる投資家』備忘録⑤第四章(一般的なポートフォリオ戦略-保守的投資家)
皆さんこんにちは、今回は『新・賢明なる投資家』第四章(一般的なポートフォリオ戦略ー保守的投資家)の内容についてまとめていきます。
※『賢明なる投資家』が1973年に出された本であることを念頭にお読みください。
備忘録①は以下よりどうぞ!
リスクが取れないなら少ない収益で我慢?
投資におけるひとつの大鉄則は、リスクとリターンのトレードオフでしょう。
リスクを取れば大きなリターンを得ることができ、
リターンを目指し過ぎると、大きなリスクに直面する事となります。
だからこそ、投資に出せる資金の少ない者、リスクをとることが出来ない者は、少ない収益で我慢しなくてはいけないと言うのが当たり前の認識になっています。
しかし、グレアムさんはこのような認識を少し修正しています。
期待できる収益率は、むしろ、投資家が自発的に投資の為にどれだけの知的努力を注げるかにかかっているはず(P168)
元本の安全を第一に考えるだけで、複雑なリスク計算、より良い投資手段の追及、といった知的な努力を怠る受動的な投資家は、最低限の利益しか得ることはできないというわけです。
もし、あなたが最大限の利益を出そうとするのであれば、あなたは受動的な投資家ではなく、あなた自身の知性と技術をフルに投じる用心深く、かつ積極的な投資家にならなくてはいけないのです。
ここで、受動的・積極的という言葉を使いましたが、この二つの言葉の意味はグレアムさんの考えをきちんと理解するためにとても重要なポイントなので、もう少し詳しく見ておきます。
グレアムさんは、投資におけるポートフォリオに関して、積極的アプローチと受動的アプローチの二つに分けて考えています。
積極的アプローチとは、株式や債券、ミューチュアルファンドの絞り込みや、リサーチ、モニタリングを常に行うものであり、対して受動的アプローチとは自動売買のようにその後の努力が一切かからない恒久的なポートフォリオ運営の事を指します。
積極的アプローチの場合は時間や知識が要請されるので肉体的につらいものであり、受動的アプローチの場合には、市場の動きに左右されない精神力が試されるという性質の違いがあります。
なるほど~
確かに自動売買とかサボってる気がするね~
ちゃんと積極的にアプローチしなくてはいけないのですね!!
...とお思いの方
ちょっと待ってください。
確かに、グレアムさんは積極的な投資家であれと言いましたが、これは別に積極的アプローチを取れと言っているわけではないのです。
え?(笑)
そうですよね、どういうこと状態ですよね。
でも、それこそ私がここで積極的・受動的の解説を挟んだ理由でもあります。
『賢明なる投資家』を読むときに読者が注意しなくてはいけないのは、グレアムさんが方法と態度のどちらを話しているのかしっかり区別しておくという事です。
先に出た「積極的」とは知的努力を「積極的に」するという態度の話です。
対して、後に出た「積極的アプローチ」とはその名の通り、方法を指している言葉です。
グレアムさんは、投資に対して積極的な態度で臨むことを強調してはいますが、殊更投資の方法、ポートフォリオに対するアプローチに関しては、個人に受動的アプローチをとるべきか積極的なアプローチをとるべきかの判断をゆだねているのです。
あなたが積極的なアプローチをとるべきか、受動的アプローチをとるべきかはわかりません、しかしグレアムさんから学べること、というか学ばなくてはいけないことは、自己の投資判断に関してあなたが積極的に関わることの重要性であり、あらためて投資リスクとは経済状況だけではなく私達自身の精神面にも潜んでいるという事実を認識しなくてはいけいけないという事です。
債券・株式の投資比率をどのように考えるのか?
前出の章において、グレアムさんは債権と株式の基本的な投資比率の決定方法について、以下のように述べています。
※上述の通り、この本が執筆されたのは1970年代であることを念頭にお読みください。
基本的なルールとして、株式の割合は最低で25%、最高で75%の範囲内に、即ち逆に債権の割合は75%から25%の範囲の間とすべき (P168)
このルールの目的とは、ポートフォリオ内の債券と株式それぞれに対する資金配分をなるべく均等に近づけようとするものです。
ではこのような戦略にはどのようなメリットが存在しているというのでしょうか?
シンプルで分かりやすい
まずは、何と言っても管理のしやすさです。
ポートフォリオの管理が複雑になればなるほど、その時その時の経済状況に対するレスポンスも遅くなりますし、管理を誤る可能性も高くなります。
しかし、この方法の場合は、例えば株式市場の上昇によってあなたのポートフォリオの株式の占める割合が55%になった場合、あなたは株式のうちの約9%(11分の1)を売却し、債券を買い増すだけです。
とてもシンプルで分かりやすいと思います。
人間の性質に対するリスク
この投資方法は、株式相場が高い水準になったら下がることを見越して株式を売却し、逆に相場が低い時は、株を買い増すことでその後の上昇相場を捕まえることをしているわけです。
でも、正直そんなことみんなやってるわ~
って思いません?
私も最初、当たり前だよねって思いました。
しかし、少し冷静に考えてみると以外とそれって出来てそうで出来ていない事に気が付きました。
というのもグレアムさん曰く、株価があるポイントを抜けたら持ち高を減らし、同様な下げがあった時は持ち高を増やすという行為は、市場の強気相場や、弱気相場を生み出す人間の性質的な面と反する行為であるからとのことです。
確かに、人間として「ここまで上がったならもう少し様子見てもいいかな~」とか思いますし、「え~損を確定したくない~!!」って思う事全然ありますよね。
ポートフォリオ戦略として自分の中できちんとしたルールを作っておくことと言うのはそうした人間としての性質と戦うためのものでもある気がしますね。
そう考えると、市場の価格ではなく資金の配分状況で管理するこの方法は、市場の雑音を避けて管理するためのとても有効な手段と言えるでしょう。
とは言えデメリットもあるよね?
もちろん、この方法にもきちんと注意しておかなくてはいけない点もあります。
一つ目は、運用成績です。
シンプルな戦略は実行するのが簡単という点でとても魅力的であるものの、その時その時における投資配分の最適な状態を作り上げているとは言えません。
優良債券が株式よりもいい収益を上げる時は、株式の割合を引き下げたほうが良い様にも思えますよね。
しかし、この問題に関してはしょうがないと受け入れなくてはいけないものかもしれません。
運用成績に関して最適な投資配分を目指すことは、同時に複雑な知識や行動が要求されることになります。
グレアムさんが投資収益率は知的努力をどれだけ注ぐかによると述べた通りに、あなたが自己の資金配分に関して多くの労力をかける事が出来るのであれば、より複雑で良い収益率の見込めるポートフォリオ作成に向かってもいいかもしれません。
二つ目は、ポートフォリオの限界
どれほど有名なポートフォリオだとしても、それが定式化されたポートフォリオだとしても、それが必ずあなたに成功を約束するものではないし、歴史を振り返れば一つぐらい失敗した例は出てくるものであるという事です。
ここで紹介した株式と債券の資金配分を均等にすると言うアプローチももちろん例外ではありません。
本書においても、エール大学における資金運用を例に出しこのポートフォリオ戦略の限界を見せてくれています。
このエール大学の例から分かることは、相場に大きな上昇が見られれば、人気を博した定式的アプローチも、致命的というべき影響を受けるという事である。(P171)
まとめ
投資収益率はあなたの知的努力次第
基本戦略=債券、株式の資金配分を均等にする
あるポイントが過ぎたら売り、あるポイントまで下がったら買う行為は人間の性質とぶつかる行為
例外あり、運用成績にはベストとは言えない。
少し長くなってしまったので後半部分の保守的投資家や債券・優先株についてはもう一つの記事に分けて書いていきたいと思います!
ここまでお読みくださりありがとうございました。
備忘録⑥はこちらから!!