『新賢明なる投資家』備忘録㉑第20章(投資の中心概念「安全域」)
皆さんこんにちは!
この記事は、『新賢明なる投資家』第20章(投資の中心概念「安全域」)の備忘録になります。
備忘録①は以下よりどうぞ!
さて、ようやく最終章の20章へと入りました。
この章では、本書の総括として「安全域」という概念について書かれています。
この「安全域」と言う概念はグレアムさんの投資概念を理解するうえで最も重要なポイントであり、グレアムさんを師と仰ぐバフェットの言葉にもみられます。
”私の仕事とは、大きな安全域の中で、「企業の内在的な価値」と、市場価格の差を利用して利益を得ること。これに尽きます” -ウォーレン・バフェット-
安全域とは?
安全域を簡潔に述べるのであれば
本質的価値>時価
の状態であると言えます。
このことを理解するためにもとりあえず、一旦証券については置いておいて一般生活における安全域について考えてみましょう。
普段の生活の中で、皆さんは次のような行為をしているのではないでしょうか?
・収入の一部を貯金に回す
・得点率7割で合格となる試験において8割以上とれるように勉強しておく
・お金を貸す時には担保を取る
これらの行為に共通している事と言うのは、仮に何か不測の事態が生じたことによって期待していた結果が達成されなかった場合にその損害を減じる、若しくは代わりに補填するものであるという事です。
そして、
この損害におけるクッションの役割をしている部分を「安全域」と呼んでいます。
証券における安全域についても同様です。
例えば、
株価が下がったり、市場が下落していたとしても、長期的に見れば株価はその実質的な価値に見合った価格に落ち着いていく事が予想されます。
そのため、
初めに買うときに実質的な価値よりも低い時価で購入することでリスクをヘッジすることが出来るわけです。
では、
具体的に安全域に関するグレアムさんの言及をいくつか見ていきましょう。
大きな安全域が存在すれば、将来的な収益が過去のそれを大きく下回ることはないと考える根拠となり、投資家は業績の変動から自らが十分に守られていると考えることが出来るのである。(P382)
『賢明なる投資家』のなかでグレアムさんは、とにかくマーケットの動きに投資家が流されない事の重要性を何度も示しています。
その点において、
投資家が安全域を持っておくというのは、投資家が市場の変動にさらされた場合に冷静でいられるよう身を助けてくれていると言えます。
更にはグレアムさんは次のようなことも言っています
長年の経験から分かっていることは、投資家が最大の損失を被るのは、好景気下で優良とはいえない証券を購入したときだということである。このような買い方をする人々は、直近の高収益がその企業の「収益力」であるととらえ、また、業績が好調であることが安全性であると考えている。(P386)
好景気による影響で株価が全体的に高い時に、実質的な価値が低い銘柄を購入することは最悪だということですね。
一時期の景気変動や市場変動に惑わされず、長い目で見て企業の収益力等をみることでその銘柄の実質的な価値を考えていく事が必要なのですね。
ではその価値はどのように考えていくのか?
投資家にとっての安全域概念は-本章の冒頭で述べたように-統計的データから得られる単純かつ明快な数学的論証に基礎をおいている。(P391)
企業の本質的価値は企業価値を発行株式数で割ることで求めていきます。
(本質的価値=企業価値÷発行株式数)
そして、この企業価値の求め方には主に、コストアプローチとインカムアプローチの二種類があります。これらは、企業の持つ資産やキャッシュフローから企業の価値を算定する方法です。
この二つについてこの記事ではこれ以上突っ込みはしませんが、とにかく大事なことはグレアムさんの言葉にあるよう、数学的に論証可能な形で安全域を考えなくてはいけないということです。
もちろん、
将来何が起きるのかを事前に予測することはできませんので、形成された安全域が将来の出来事に耐えうるものであるとは言い切れません。
しかし、
明確な数学的論証によってはじき出された安全域が、感覚的な安全域に比べて劣るものであるとは思えません。
なぜなら、
感覚的に安全域を考えるとしても、投資家はおそらくこっちの方が安全である「可能性」が高いといったように考えるであろうと思われるからです。
可能性と言うのはまさしく数学的論証が必要な分野でありますし、仮に完全に感覚で投資対象を考えるのであれば、それはギャンブルをしているのと何も変わらないわけで、もはや投資とは言えないでしょう。
どちらにせよ数学的な感覚で判断するのですから、数学的な論証によって証明可能な安全域を構築するほうが合理的である「可能性」が高いのでしょう。
分散投資について
安全域の概念と分散投資の原理との間には、密接なる論理上の関連性が存在する。お互いがお互いに対して相補関係にあるのだ。相当の安全域を備えていても、銘柄によっては損失を生むものもある。なぜなら、安全域が保証するのは、損失よりも利益をあげる可能性の方が大きいということだけであって、絶対に損をしないということではないからである。しかし、安全域を備えた銘柄に投資するとき、その銘柄数が増加するに従って、利益の総額が損失の総額を上回る確実性がさらに増す。これは、保険引受事業の基本原理と同じである。(P389)
これはリスクマネジメントの基本的な考え方を示していますね。
リスクマネジメントについて知りたい方はこちらへどうぞ!
投資対象が集まれば集まるほど利益の分散は小さくなります。
分散が小さくなるとは、値のばらつきが減るという事です。
分散が小さくなることによって、最大の利益を出す可能性も減りますが、同時に最大の損失を出す可能性も小さくなります。
しかし、
ここで重要なのは、たとえ分散が小さくなったとしても期待利益は変わらないという点です。
安全域を考えてポートフォリオを組んだ場合、これは損失よりも利益がでる確率が大きいことを意味しているわけですから期待利益はプラスになります。
そのため、分散投資をおこない分散を小さくすることで安定的に収益を上げられるようにするわけですね。
むすび
グレアムさんが『賢明なる投資家』の最後で語っていることについていくつか取り上げます。
第一の原則は、「自分が何をしているのかを知れ―己の事業を知れ」(P395)
バフェットの言葉にも次のようなものがありましたね。
”最も重要なのは、自分の能力の輪をどれだけ大きくするかではなく、その輪の境界をどこまで厳密に決められるかです”
自分に何が出来て、何が出来ないのか?
自分の投資する事業の価値とはどのようなものなのか?
相当な利息や配当はどれくらいなのか?
このようなことをきちんと意識してそれ以外の範囲や結果を求めるなという事ですね。
出来ない事で失敗するのではなく、自分にできることをできる範囲ですることで成功を掴むことの重要性を学べますね。
すなわち「自分の知識や技術に勇気を持って従いなさい。事実に基づく結論を自ら下し、その判断が正しいと確信したのなら、たとえ他人がそれに対して躊躇したり異なった考えを持っていようが、自分の判断に従って行動しなさい」という事である。(P396)
こちらもまたバフェットの言葉を借りましょう(笑)
”市場動向や他人の意見につられて株の売買をしない。”
投資家であるならばこれらの言葉は本当に大切にしていきたいですね。
他人が自分の判断と異なっているとしても、その他人もまた自身で調べ、考え、生み出した意見なのでしょう。
あなたもまた、自己の判断について調べ、考え、確信できるのであればそれは信じてもいいですよね。
もちろん、
間違えることもあるでしょう。
しかし、
自分で考えたからこそ、自分の判断のどこが間違っていたかを理解することが出来ます、修正することが出来ます。
自分で考え、自分で行動する、他人の意見はアドバイス程度に、このことを頭に入れておきたいです。
まとめ
・安全域で投資を
・分散投資を
・自分を信じる事
・信じられるだけの知的努力を
編集後記:
今回で『新賢明なる投資家』の備忘録は終わりになる。
一通り読んでみて初めに感じたことは、現代最高の投資家の一人でもあるウォーレン・バフェットの人生にどれだけベンジャミン・グレアムと言う人物が深くかかわっているのかという事だ。
今備忘録においてはバフェットの言葉を度々拝借させて頂いたが、どれもこれもグレアムの主張を端的に表しているものが多かったのもうなずける。
まあ、バフェットに関してはこの辺にして著書の感想に移ろう。
『新賢明なる投資家』はバリュー投資を学ぶ方にとっては非常に有益な入門書になるだろう。安全域の考え方、防衛的投資家の心がまえ、投機と投資の違い、など学ぶべきことがたくさんある。
おそらく、投資に興味のある方ならば『賢明なる投資家』という本については耳にしたことぐらいはあるだろうし、読んでみようかなと興味を持っている方もいることだろう。
もちろん、この本を読んだからといってそれだけで投資がうまくいくかと言うとそうではない。
しかし、私の口から確実に言えることは「この本に書かれている内容を知らずに投資に臨むべきではない」という事である。それぐらい有益な内容が詰まっていることは疑いようもない事である。
もしあなたが投資に興味があるのであればまずは手に取ってみることをお勧めする。
注意点としては、『賢明なる投資家』は発刊からかなり年数も経っているので、なるべく新しいものを購入すること。この備忘録は『新賢明なる投資家』を扱った。これは、グレアムの時代から現代の社会には合わなくなった点についての解説が乗っていたりと非常に親切だった。とはいえこれに関しても第三刷が2006年なのでその点には注意を。
最後に、この備忘録において私が書いてきたことは、あくまでも個人的解釈に基づいたものであり、解説や正しい情報について発信すること、投資を誘引する等の目的はないことをはっきりと明示しておきたい。
加えて、私が触れた内容はほんの一部に過ぎない、正しい知識を得るためにも、絶対に本文をお読みくださることをお願いする。
以上
ここまでお読みくださりありがとうございました。
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